名古屋市立大学大学院 人間文化研究科/人文社会学部 現代社会学科 菅原真研究室

研究プロジェクト

科研費・基盤研究(C)「フランス憲法・行政訴訟における外国人の権利の展開とNPOの役割」(2011年度~2013年度)

研究課題番号:23530033。

現在、我が国では「多文化共生社会」の実現が重要課題の一つとして位置づけられている。<グローバル化>が進展する現在、移民の定住化を前提とした議論を行い、法整備を行うことは避けられない。しかし、「共に生きる社会」の構築は垣根なしに困難な課題であり、英米型コミュノタリズムに基づく多文化主義モデルと異なるフランス型社会統合モデルも、積極面のみならず、様々な課題を露呈させてきた。そこで、本研究は3年の研究期間を通じて、(1)この30年間のフランスの移民政策および法制度の推移、憲法院によるそれらに対する立憲的統制、憲法院・国務院の諸判決において明らかにさてきた外国人の諸権利の諸内容、それらに対する憲法学説の評価など、第5共和制憲法の下での外国人および移民の法/権利の状況を公法学的観点から明らかにすること、(2)さらに、1978年に外国人の権利に重要判決(GISTI判決)を国務院から引き出した移民の権利擁護団体・GISTIの活動に焦点を当て、このNPOがフランスの法世界に与えている現実の役割や影響を分析・考察していくことを課題としている。

国務院の幹部で憲法院事務総長でもあったB・ジュヌヴォワ氏も、このNPOが数多くの訴訟を提起して判例形成に寄与してきたことを大いに評価している。GISTIの企画への参加は弁護士の義務的研修プログラムの一環となるなど、法曹養成という観点からも注目される。本研究では、GISTIの歴史・現在の活動内容・フランスにおける人権の進展という観点から、GISTI関係者へのインタビュー調査を行い、かつGISTIがこれまで発行してきた書籍・雑誌等を参照しながら、フランス公法学におけるこのNPO団体が果たしてきた役割について考察する。

科研費・若手研究(スタートアップ)「フランス革命期の『人類主権』論」(2007年度~2008年度)

研究課題番号:19830005。

本研究の目的は、フランス革命初期に「フランス市民権」を付与され、国民公会議員として活躍したプロイセン出自の政治家・思想家であるアナカルシス・クローツの「人類主権」論について、現代的視点から憲法学的・憲法思想史的研究を行うことである。本研究の意義は、近代国民国家が「市民権」の領域から排除してきたと考えられる「外国人」をも包含する「人類」を主権者としたことの意味・目的等を研究することによって、EU統合下、その国民国家モデルの変容が論じられている現代フランスにおいて、「人類主権」論の現代的再構成の可能性を検証することである。

フランス公法学の諸教授から直接知識の提供を受け、さらに文献研究を通じて到達した結論は、以下のようなものである。第一に、「人類主権」を明記するクローツの憲法草案には統治機構が存在しないため、現代公法学においては空想的なものと認識されていること。第二に、ロベスピエールの人権宣言案にも影響を与えたクローツの「人類主権」論は、彼の「世界共和国」構想(「人権思想が徹底された法社会」・「地域風土の差異を超えた同質的な人間性の下で、生産物も思想も自由に交換・流通可能な経済社会」・「人間本性を偽り覆い隠す諸宗教を廃し、無神論によって統一された信仰社会」)の中心に位置づけられる考え方であること。第三に、「人類の幸福」のために国境を除去すべしとする革命期の彼の考え方には、現代における「人権の国際化」、人道的介入の是非、さらに超国民国家的憲法論について議論する際にも、参照されるべき内容が包まれているということである。

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